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第13回 越前 敏弥さん「読者とつながり、書店を巻き込む 」後編
 

翻訳家・越前 敏弥(えちぜん としや)さん

文芸翻訳家。ダン・ブラウン、エラリー・クイーン、スティーヴ・ハミルトンなどミステリー作家の作品を中心に、『思い出のマーニー』『シートン動物記』など古典児童文学の新訳も手がける。

公式ブログ・翻訳百景



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■インタビュー:佐藤千賀子(さとう ちかこ) ■テキスト:川上 洋子(かわかみ ようこ)

 


 その他のインタビュー

 

 インタビュー ・後編

富士山頂読書会に、鵜飼つき読書会……???

佐藤  そもそも読書会って、どんな風に成り立っているんでしょう? 誰か中心となる人がいて、まとめているんですか?
越前  各地に世話人がいて、プロの翻訳家や書評家がやっているところもあるし、一般人がやっているところもあります。翻訳ミステリー大賞シンジケートが後援する読書会は、今、全国約20か所にあり、それぞれ3か月に1度ぐらいのペースで開催しているので、毎週どこかでやっている感じですね。各地バラバラに運営しているんだけど、ツイッターを通じてすごく仲良くなっているから、どこかが「読書会やるぞー」って告知すると、別の会の人たちもなんだかんだ一緒に騒いでくれるんですよ。終わって、サイトに報告記事が載ると、それについて違う地方の人がツイートして、また盛り上がる。
佐藤  事前に課題書を読んでいって、それについて語り合うんだろうなぁというのは想像できるのですが。
越前  たとえば福島読書会は「翻訳ミステリーのABCからXYZまで」と題して、アルファベット順に課題図書を選んでいます。『ABC殺人事件』からスタートし、最後はX・Y・Zの悲劇になるわけですね。課題作品の翻訳者を招いて、翻訳秘話を聞いたりすることもあります。最近すごかったのは、名古屋の翻訳ミステリー読書会。「日本一高いところで読書会をやろう」ということで、10人ぐらいが富士山頂まで登って、読書会をやっていた。課題書は、ボブ・ラングレーの『北壁の死闘』。
佐藤  すごい臨場感……!! はあ〜やっぱり本読む人たちって面白い。
越前  面白いでしょ? 岐阜の会は、鵜飼つき読書会なんかやっています。こういう“変なヤツら”が助けてくれているんです。「なんで鵜飼やりながら読書会やるんだ?」「よくわかんないけど、なんか変なことやっているらしいぞ〜」って、読書会に来たことない人も注目してくれるし、読書会に参加しないまでも、その作品に興味を持って、読んでくれることはあると思うので。
佐藤  いや、よくぞここまで……!! このネットワークは少しずつ各地に波及していったわけですか?
越前  もともと東京にはシンジケート主催の読書会があったんです。でも、素朴な疑問として「東京だけで盛り上がるのもどうかな。地方でもやるべきじゃないか」と思って、いろいろな人に頼んだりしながら、2011年1月に福岡と大阪で発足したんです。その頃は、ここまで広がるとは思ってなかったんだけど、「ほかにもやるところ、ありませんか?」と呼びかけていたら、3月に大震災があって、なんとその年の夏に福島から「やりたい」というメールが来たんです。しかも、それが一般人による最初の読書会になった。それから4年で20か所まで増えました。

 

もう一桁増えたら、きっと市場が動く

佐藤  読書会はむしろ地方の人たちこそ求めていたのかもしれないですね。
越前  そうなんです。だから翻訳者が参加したりすると、ものすごく歓迎してくれます。僕は年に5、6回、地方の読書会に出るんですが、毎回のように会う人がいるんですね。日本中の読書会を回っている常連が、僕が知っているだけで3、4人いますよ。
佐藤  ただ読むだけでなく、何かを共有できる喜びが大きいのかしら。
越前  特にミステリー小説の場合、ネタばれを気にせずに、いくらでもしゃべっていいというのは、すごくストレス解消になるんですよ。それと、やっぱりね、本好きの人がまわりにいないから、そういう機会に発散している。どこへ行っても、それは感じます。
佐藤  そうか。同じ熱量の人じゃないと話にならないから。
越前  そうそう。だからって、あまり暴走しちゃうと、今度は初心者が入っていけなくなる。なんというか、いわゆる“頑固親父”みたいな人もいるんですよ。それもね、接し方しだいなんです。攻撃的な人では困るんですけど、ちょっと面倒見がよすぎるぐらいの、お節介な人がいてくれると、すごく会が盛り上がる。戦前の原書を持っているような人が各地に必ず1人か2人いますし、ミステリー研究会に入っているような若者もいて、それほど詳しくない人もいて、みんな一緒に楽しんでいる……というのが理想なんですね。毎回15人か20人集まっていて、平均年齢は40代ぐらいかな。20代、30代もときどきいます。若い子は次に友だち連れて来てくれるから、男女問わず若い人が増えていくといいなとは思いますね。
佐藤  この人たちのために、この作品を出版しようという流れにもなるでしょうし。
越前  読書会の数がもっと増えて、たとえば100か所になったときには、マーケットが動くかもしれません。今でも、一部の版元が20の読書会の世話人に新刊を献本してくれています。「読んでみてください」「面白かったら宣伝してください」って。そういう動きがどんどん出てくると、ありがたいんですね。こちらはミステリー専門だけど、別のジャンル——たとえばSFや純文学でも、こういうことをやる人たちが増えればいいと思います。実際、読書会を始めてからシンジケートのサイトへのアクセス数が明らかに増えているんです。本の部数を動かすためには、まだ「一桁足りない」という状態ですけど、手応えはありますよ。それは確かに。
佐藤  なるほど〜。だいぶ明るい気持ちになってきました。もうひとつ、越前さんはもっと若い読者を育てる活動も続けていらっしゃいます。それが小学生を対象にした読書探偵作文コンクール。  

 

次世代の“本読みたち”のために

越前  これは、小学生にもっと翻訳書を読んでほしいということと、決まりきった読書感想文ではない自由な形で書いてほしいという、2つの趣旨で始めて、今年で6回目になります。もともとは翻訳ミステリー大賞シンジケートで始めたものなんですが、今はやまねこ翻訳クラブが中心になってまとめてくれています。
佐藤  過去の優秀作品を見せていただいたんですが、『赤毛のアン』を読んだ子が物語を短歌で表現していたり、『チョコレート工場の秘密』を読んだ子が「自分のチョコレート工場をつくるとしたら」って不思議なお菓子をたくさん考案していたり、昆虫大好きな子が「天国のファーブルさんへ」という手紙を書いていたりして、読書にはこんな楽しみ方があるんだなって、あらためて思いました。
越前  ファーブルについて書いた子は3年連続で応募してくれていて、その子が3年間でどう変わったかわかるのが、すごく面白いんです。
佐藤  課題図書がなくて、「翻訳書ならなんでもいい」という自由さがいいですね。
越前  本当は、「翻訳書だけ」という条件をつけるのも、理想とは言えないんです。わざわざ意識しなくても、面白い本を選んだら、10作のうち3つか4つが外国のものだったというのが、自然な形であってね。でも、国語教材の中で外国もののウエイトは減っているし、極端な話、小学校高学年でも、メアリーが男なのか女なのかわからない子がいたりする。つまり、それほど海外の作品を読んでいないんですね。
佐藤  小さいうちから英語教えろとか、何かにつけてグローバル、グローバル言うわりには、そこは後退している感じがします。その意味で、コンクールの「外国の物語や絵本を読んで、おもしろさを伝えよう!」というキャッチはいいですね。
越前  いずれは中高生まで広げたいと思っています。そうなると審査は大変だけど、このコンクールも、応募者がもう一桁増えると、影響力を持てるかもしれない。優秀賞を集めた文集を出版できないものかと、今、いろいろ働きかけているところです。

インタビューを終えて
 東江さんの追悼イベントは、1人の翻訳家をフィーチャーした企画として、本当に画期的なモデルケースになったと思います。「ああいうのってね、人が亡くなっていない状態でやりたいですね」と言う越前さん。近頃は“生前葬”というものもあることですし、最後にご本人が照れ笑い(苦笑いかな?)しながら登場するような「翻訳家○○○○の世界」……ぜひ、また企画していただきたいと期待しております。
佐藤千賀子
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